〘 ハイ喜んで 〙
母が常々言っていた言葉の一つに、「人から何かを頼ま
れた時には゛はい喜んで゛の精神で受けること」があり
ます。手を大きく広げて歓迎するように、明るく爽やか
に「はい喜んで」と言うのです。私はその教えのように、
特に不都合でなければ、頼まれごとはすべて「はい喜ん
で、させて頂きます」と受けるようにしています。
引きこもりの若者達を元気にする活動の中村文昭氏は
「自分育ての信念の法則として「返事は二秒で。頼まれ
ごとは試されごと」を強調して指導されています。
その頼まれごとが自分に合っているかとか、自分にで
きるかを考えるのでなく、「頼まれるということは試さ
れているのだ!」ということですが、なるほどその通り
だと思います。その人ならできると思うから頼んでいる
のです。期待されているのです。あるいは能力を試され
ているのかもしれません。それを承諾することは
自分を育てる、信用を培う大切なチャンスです。
よく聞く話ですが、新入社員の方に「・・をお願いし
ます」と頼むと「なんで自分がそんなことをしなければ
ならないのですか」「それは私の仕事ではありません」
とふてくされたり、中にはそのことを理由に会社を辞め
てしまう人もいるそうです。頼んでも、いつも断られた
り、よい返事が返ってこないと、その人には頼みづらく
なってしまいます。それは体験や成長のチャンスを逃し
てしまうことになります。「当てにならない人」です。
モラロジーの古い先輩の中には「物事には事の大小、
軽重があり、優先順位があり、その問題が人心救済の役
に立つかどうか考えて行動するように」という指導され
る方がおられました。しかし、草花に「雑草という名の
草はない」といわれるように、つまらない仕事、役に立
たない仕事というものはないようです。どんな小さなこ
とでも、何かの役に立つものです。必要な事なのです。
小さなつまらないと思うようなことでも、それをしなけ
れば前には進まない。一見、価値のないようなことでも、
一生懸命している姿、黙々と誠心誠意行動する姿は人に
感動を与えます。その姿を人も神様も見ています。小賢
い人間の知恵で判断するより、誰かの役に立つなら、犯
罪でない限り、少しでも「はい喜んで」の精神で行動し
たいものです。最近は「損か得か」のみ考えて行動を決
める人が多いようですが、残念なことです。
「許す心、譲る心、苦労は私が致します」という言葉が
あります。以前、モラロジーの大先輩から「バカ見て、
損して、犠牲を払え」と教えられたことがありました。
いずれも要求心をもたず、自分の大切なお金、時
間、労働等の犠牲を払って行動することが重要です。
他者への貢献には寄付などの金銭での貢献と無財
の貢献があります。自分のできることをすればよい
話ですが、『れいろう誌』七月号に次のような渋沢
栄一の言葉が載っていました。(文中の言葉・太字)
「富豪といえど自分一人で金儲けができるわけではない。
いわば社会から儲けさせてもらったようなものではないか。
だから自分が大金持ちとして生まれたのも、ひとつは社会
の人々のおかげでということを自覚して、社会福祉や公益
事業と言ったものに、率先して尽くすようにして欲しい。
そうすれば社会はますます健全になる。それと同時に自
分の資産運用もますますしっかりしたものになるだろう。
だから資産を築くことには常に社会の恩義という一面が
あるということを肝に命じなさい」
「道徳と経済は一体であるべきである」と説いた
渋沢らしい含蓄のある言葉だと思います。
また「先人や社会一般、もっといえば天地自然から受
けた恩に気づき、恩に報いてきた人によって、私達の社会
は維持されてきた」とありますが、今日の成功、幸せ
は自分の努力だけでなく、たくさんの恩恵を、過去
現在も頂いて今日があることをしっかり自覚して、
「はい喜んで」と行動したいものです。
「幸せと言うのは直接的に追い求めようとすると、
かえって手からこぼれ落ちてしまうものです」
「はい喜んで」のご褒美は神様から頂きましょう。
★★★★
【名所案内】〘美術館のような版画のお寺・毎来寺〙
七十六年の人生のほとんどを岡山県津山市に住んでい
ても、当地についてまだまだ知らないことがいっぱいあ
ります。そんな中で、最近最も驚いた知らないことは、
真庭市目木にある版画で有名なお寺・曹洞宗毎来寺のこ
とです。そのお寺はまるで版画の美術館。たくさんの素
晴らしい版画が十部屋の全部に芸術的に飾られています。
それらのすべての版画は住職の岩垣正道氏の作品。昭和
五十一年鳥取県より、この寺に二十八世住職として入山
して、八十二才の現在まで、お勤めをしながら、版画を
作り続けておられます。元々絵が好きで、大学時代は美
術部。洋画を書かれていたそうですが、毎来寺に来られ
て版画を始められました。檀家さんに版画で作った般若
心経の掛け軸を差し上げるために作り始めたそうです。
しかし、たくさんの字の版画を紙に刷るのが大変で、
途中でやめ、その後は絵や詩を掘り、そして墨だけでな
く、色も入れて、さまざまな絵を描くようになったとか。
次から次へアイデァ満載で多様な版画を作られていま
すから、飽きることなく、次は何かと、期待感いっぱい
に見学しました。見学はいつでもできるようですが、
留守の時もあります。電話で確認した方が良いかもしれ
ません。住職さんのお話もまた楽しい!
せっかくなら説明を受けた方が良いと思います。
毎来寺・真庭市目木一〇〇一。
目木小学校後ろ。
℡〇八六七―四二―〇九三二。
ネットでも紹介。